ドクターより

メッセージ

杉並区阿佐ヶ谷の歯医者「阿佐ヶ谷ことぶき歯科・矯正歯科」歯科医師の、八尾 翔太(やお しょうた)です。むし歯は、「歯に穴があいた状態」だと思われがちですが、実際にはそれよりずっと前から静かに進行しています。初期のむし歯は痛みもほとんどなく、見た目もわかりにくいため、患者さんご自身が気づいたときには、すでに神経の近くまで進んでいることも珍しくありません。阿佐ヶ谷の当院でも「痛くないから大丈夫だと思っていた」「しみるのを放置していたら、急に激痛になった」というご相談を日々いただきます。

むし歯は、歯垢(プラーク)中の細菌と、糖分、時間、それに歯の強さといった複数の要因が重なって起こる「生活習慣病」の一つです。きちんとメカニズムを理解し、早期に発見し、適切に管理することで、大きな治療や抜歯を避けることも十分可能です。このページでは、「むし歯とはどのような病気なのか」「なぜできるのか」「どのように進行していくのか」を、できるだけわかりやすく、しかし専門的に解説していきます。むし歯の具体的な治療方法や、当院で行っているMI治療(できるだけ削らない治療)については、別ページで詳しくご紹介していますので、併せてご覧ください。


むし歯とはどのような病気か

むし歯(う蝕)は、歯の表面についた細菌がつくり出す酸によって、歯のミネラルが溶け出してしまう「脱灰(だっかい)」が繰り返され、やがて歯に穴があくまで進行する病気です。単なる「汚れ」ではなく、歯の組織そのものが失われていく「構造の破壊」です。歯の表面はエナメル質という非常に硬い組織で覆われていますが、酸には弱く、pHが一定以下になると溶け始めます。これが長期間繰り返されることで、表面のミネラルが徐々に失われ、やがて内部の象牙質、さらに深部の歯髄(神経)へと進行していきます。一度穴があいてしまった部分は自然には元に戻らないため、早期に発見して進行を止めることが非常に重要です。

むし歯ができる4つの要因(4つの輪)

むし歯は、単なる「磨き残し」だけで起きるわけではありません。大きく分けて、次の4つの要因が重なったときに発生・進行します。

1. 歯の質(歯の強さ)

歯の硬さ・構造・エナメル質の成熟度など、もともとの歯の性質によって、むし歯になりやすさは異なります。生えたばかりの永久歯や乳歯はエナメル質が未成熟で軟らかいため、むし歯になりやすい傾向があります。

2. 細菌(むし歯菌)

ミュータンス菌などのむし歯の原因菌は、歯の表面に付着し、糖分を分解して酸を作り出します。これらの細菌が集まったネバネバした塊が「プラーク(歯垢)」です。プラークはうがいでは落ちず、歯ブラシやフロスを使った機械的な除去が必要です。

3. 食べ物・糖分(とくに頻度)

お菓子やジュースなどの甘いものだけでなく、炭水化物全般が細菌の「エサ」になります。とくに問題となるのは「量」よりも「摂取する頻度」で、ダラダラ食べや間食が多いと、お口の中が酸性の状態の時間が長くなり、むし歯が進行しやすくなります。

4. 時間(酸にさらされる時間)

食事や間食のたびにお口の中のpHは酸性に傾き、その後唾液の働きで中性に戻ります。しかし飲食の回数が多いと、再石灰化(溶けたミネラルが戻る働き)が追いつかず、脱灰が優位になり続け、むし歯が進んでしまいます。これら4つの要因は、それぞれが単独でむし歯を起こすのではなく、「組み合わせ」と「バランス」でリスクが大きく変わります。杉並区阿佐ヶ谷というエリアでも、生活リズムや食習慣、ストレスなどにより、むし歯リスクは一人ひとり異なります。

むし歯の進行段階(C0〜C4)

むし歯は進行の程度によって、一般的に「C0〜C4」の5段階に分類されます。どの段階で発見できるかによって、必要な治療内容や歯の予後が大きく変わります。

C0:ごく初期のむし歯(脱灰)

エナメル質表面のミネラルが溶け始め、「白く濁って見える」「艶がない」などの変化が出てくる段階です。まだ穴はあいておらず、痛みもありません。この時期は、適切なブラッシングやフッ素応用によって、再石灰化が期待できることもあります。

C1:エナメル質のむし歯

エナメル質内に限局した小さなむし歯です。黒や茶色に見えることもありますが、しみたり痛んだりすることはほとんどありません。見た目の変化だけで気づきにくく、定期検診での発見が重要な段階です。

C2:象牙質に達したむし歯

エナメル質を越えて、その内側の象牙質まで進行したむし歯です。冷たいものや甘いものがしみる症状が出てくることが多く、「痛い」という自覚が出始める段階です。ただし、しみるのが一時的ですぐおさまる場合は、放置されがちなのもこのステージの特徴です。

C3:歯髄(神経)まで達したむし歯

むし歯が深く進行し、歯の神経まで達した状態です。ズキズキとした自発痛、夜眠れないほどの激痛、温かいものに強くしみるなどの症状が出ます。むし歯というより「歯の神経の病気(歯髄炎)」の状態で、この段階になると神経を残すことが難しくなるケースも多くなります。

C4:歯冠が崩壊したむし歯

むし歯が進行し、歯の頭の部分(歯冠)がほとんど崩れて、根っこだけ残っている状態です。神経はすでに死んでいることが多く、痛みが一時的におさまることもありますが、根の先に膿の袋(根尖性歯周炎)ができたり、腫れや膿が繰り返されるリスクが高い状態です。抜歯が避けられない場合も少なくありません。

むし歯の症状 ― 痛みがないからといって安心ではありません

むし歯=痛いというイメージがありますが、実は「かなり進行するまで痛みが出ない」ことも多くあります。症状の有無だけで、むし歯の進行度を判断することはできません。

  • 冷たいもの・甘いものがしみる
  • 噛んだときに違和感がある
  • 歯の色が黒く・茶色く変色してきた
  • 歯の表面がザラザラ・引っかかる感じがする
  • 何もしていなくてもズキズキ痛む(自発痛)
  • 夜間・寝ているときに痛みが強くなる

特に、「痛みがなくなったから治った」と自己判断してしまうケースには注意が必要です。神経が壊死して一時的に痛みが引いているだけで、内部では静かに炎症が進み、やがて腫れや膿、根の病気へと発展することもあります。

さまざまなむし歯のタイプ

むし歯は、できる場所や背景によって性質が異なります。それぞれのタイプを理解することで、ご自身のリスクのイメージがしやすくなります。

裂溝う蝕(奥歯の溝のむし歯)

奥歯の噛む面には深い溝があり、プラークがたまりやすく、磨き残しが起こりやすい部位です。見た目は小さくても内部で大きく広がっている「隠れたむし歯」になりやすいのが特徴です。

隣接面う蝕(歯と歯の間のむし歯)

歯と歯の間にたまったプラークが原因で起こるむし歯です。外から見えにくく、レントゲンで初めて見つかることも多いタイプです。デンタルフロスや歯間ブラシの習慣が少ない方に多く見られます。

根面う蝕(歯の根元のむし歯)

歯周病などで歯ぐきが下がり、露出した歯の根の部分にできるむし歯です。根の表面はエナメル質ではなく象牙質のため、酸に弱く、進行が早いのが特徴です。ご高齢の方や、歯ぐきが痩せてきた方に多く見られます。

二次う蝕(詰め物・被せ物の下のむし歯)

過去に治療した詰め物や被せ物の段差・すき間から、再びむし歯ができる状態を「二次う蝕」と呼びます。見た目はきれいでも内部でむし歯が広がっていることも多く、気づきにくいタイプです。

急速進行性う蝕(ラピッドカリエス)

短期間に複数の歯が一気にむし歯になるケースで、ストレス・唾液分泌量の低下・薬の副作用・生活リズムの乱れなどが背景にあることもあります。阿佐ヶ谷の当院でも、短期間で口腔内環境が悪化している方には、全身状態や生活背景も含めて丁寧にお話を伺うようにしています。

むし歯になりやすい人・なりにくい人

同じように歯を磨いているつもりでも、「むし歯になりやすい人」と「なりにくい人」がいるのはなぜでしょうか。むし歯リスクは、体質・唾液・歯並び・生活習慣など、多くの要素によって決まります。

  • 唾液の量・質(唾液が少ないと自浄作用・再石灰化が働きにくい)
  • 歯並び・噛み合わせ(重なりが多いと清掃が難しい)
  • 間食・甘い飲み物の頻度
  • フッ素の使用状況
  • 過去のむし歯の本数(むし歯の既往歴が多いとリスクも高い)
  • 全身疾患や服薬の有無(ドライマウスを引き起こす薬など)

当院では、単に「磨きましょう」とお伝えするだけでなく、患者さん一人ひとりのリスクプロファイルを考えながら、阿佐ヶ谷での生活スタイルに合った現実的なむし歯予防プランをご提案しています。

むし歯を放置することで起こる影響

むし歯は、痛くなったときだけ対処すればいい病気ではありません。放置すればするほど治療は大がかりになり、歯の寿命は短くなっていきます。

  • 神経の炎症・壊死による激しい痛み
  • 根尖性歯周炎や歯根の病変(膿の袋など)
  • 歯の崩壊・破折による抜歯のリスク
  • 噛み合わせのバランスの崩れ(欠損ドミノ)
  • 見た目のコンプレックス・口臭の原因
  • 重度の場合、全身への影響(炎症の波及など)のリスク

一本の歯のむし歯が、やがて噛み合わせ全体の乱れを招き、将来的なインプラント・入れ歯・大がかりな治療につながることも少なくありません。「小さいうちに見つけて、小さいうちに対処する」ことが、結果的に身体的・時間的・経済的な負担を大きく減らします。

子どものむし歯と大人のむし歯の違い

乳歯や生えたての永久歯は、大人の歯とは構造や性質が異なり、むし歯の進行スピードも違います。ご家族で阿佐ヶ谷周辺にお住まいの方は、お子さまのむし歯にも特に注意が必要です。

子どものむし歯(乳歯・生えたての永久歯)

  • エナメル質が薄く軟らかいため、進行が早い
  • 痛みをうまく訴えられず、発見が遅れやすい
  • むし歯が歯並びや顎の成長に影響することがある
  • むし歯経験が多いと、その後のリスクも高まる

大人のむし歯

  • 詰め物・被せ物の周囲や下にできる二次むし歯が増える
  • 歯ぐきが下がって根面むし歯が増える
  • 忙しさやストレスでセルフケアが疎かになることがある

阿佐ヶ谷で「むし歯が気になる方」へ

「少し黒く見えるところがある」「時々しみるけれど、我慢できるから様子を見ている」――。そうした小さなサインが、大きなむし歯や神経の病気の前触れであることも少なくありません。当院では、むし歯という病気自体の正しい理解と、早期発見・早期対応を大切にしています。むし歯の治療方法や、歯をできるだけ削らないMI治療については、別ページで詳しくご紹介していますので、そちらもぜひご参照ください。阿佐ヶ谷周辺でむし歯が気になる方は、痛みが強くなる前の段階で、お気軽にご相談ください。