ドクターより

メッセージ

杉並区阿佐ヶ谷の歯医者「阿佐ヶ谷ことぶき歯科・矯正歯科」歯科医師の、八尾 翔太(やお しょうた)です。歯周病は“痛みが出にくいまま進行する”極めて厄介な疾患です。

むし歯のように早期から痛みが出ることは少なく、歯ぐきのわずかな腫れや出血が見られる程度で、患者様ご自身が「気づけない」ことが多くあります。しかしその裏では、歯を支える骨(歯槽骨)が徐々に溶け、歯の寿命が縮まっているケースも少なくありません。

歯周病は細菌感染に加え、生活習慣、遺伝的要因、免疫の状態など多角的な要素が複雑に絡み合う“慢性疾患”です。全身疾患との関連も深く、近年では全身の健康に大きく影響を及ぼすことが学術的にも明らかになっています。阿佐ヶ谷地域でも歯周病に悩まれる方が非常に多く、早期発見・正確な検査・リスク管理が重要です。


歯周病とはどのような病気か

歯周病は、歯と歯ぐきの境目に付着した細菌(プラーク)が炎症を引き起こし、その炎症が歯周組織全体へと広がっていく病気です。炎症が歯ぐきだけにとどまる「歯肉炎」と、骨にまで及ぶ「歯周炎」の二段階に分類されます。

特徴的なのは、“自然には治らず、必ず進行する”という点です。炎症は歯周ポケットの内部へ徐々に広がり、骨が溶け、歯が揺れ始め、噛む力に耐えられなくなります。歯周病が重症化すると、治療をしても元の骨量に戻ることは難しく、歯科医療の中でも特に「予防・早期発見」が重要な疾患とされています。

歯周病の原因

歯周病の主な原因は「歯周病菌による感染」です。しかし実際には、細菌だけでなく、生活習慣、全身の健康状態、遺伝的な要因など複数の因子が組み合わさって発症・進行します。

1. プラーク(細菌の塊)

歯周病の最も根本的な原因はプラークです。プラークは約1mg中に1億個以上の細菌が存在する「細菌バイオフィルム」で、歯と歯ぐきの境目で毒性物質を放出し、炎症を引き起こします。

2. 歯石の蓄積

プラークが唾液の成分と反応して硬化すると歯石となり、細菌の温床になります。歯石は歯ぐきの上にも下にも付着するため、歯周ポケットの深部で炎症を持続させます。

3. 生活習慣の影響

  • 喫煙(歯周病リスクが2〜3倍、治癒力も低下)
  • ストレスによる免疫低下
  • 口呼吸
  • 不規則な食生活・糖質の多い食事
  • 磨き残しの多いブラッシング

4. 全身疾患

  • 糖尿病(歯周病を重度化させる代表疾患)
  • 免疫力の低下
  • ホルモンバランスの変化(思春期・妊娠・更年期)
  • 遺伝的体質

5. 歯並び・噛み合わせ

歯列不正や噛み合わせ異常は一部の歯に過度な力をかけ、歯周組織の破壊を加速させることがあります。

歯周病の進行段階

歯周病は「歯肉炎 → 軽度歯周炎 → 中等度歯周炎 → 重度歯周炎」と段階的に進行します。

1. 歯肉炎

歯ぐき表層の炎症。赤み・腫れ・出血が見られるが骨の破壊はない。正しいケアで改善可能。

2. 軽度歯周炎

炎症が歯周ポケット内部に広がり、骨吸収が始まる段階。症状は軽微で、自覚症状はほとんどない。

3. 中等度歯周炎

歯槽骨の破壊が進行し、歯の動揺・口臭・膿などの症状が出始める。痛みを伴うこともある。

4. 重度歯周炎

歯を支える骨の大部分が失われ、歯が高度に動揺する段階。放置すれば自然脱落・抜歯へ。

歯周病の主な症状

歯周病は“静かに進行する病気”であり、気づいた時には中等度以上のケースが多くあります。

  • 歯ぐきの腫れ・赤み
  • 歯ブラシやフロスでの出血
  • 歯が長く見える(歯ぐきが下がる)
  • 口臭が強い
  • 歯の揺れ・浮いた感じ
  • 歯と歯の隙間に物が詰まりやすい
  • 膿が出る
  • 噛むと痛い

歯周病と全身疾患の関係

近年の研究で、歯周病は「全身の病気と深く関わる」ことが明らかになっています。

糖尿病

歯周病は血糖コントロールを悪化させ、糖尿病は歯周病の治癒力を低下させる双方向性関係。

心筋梗塞・脳梗塞

歯周病菌が血管に入り込み、動脈硬化を進めるメカニズムが報告されています。

誤嚥性肺炎

高齢者では口腔内細菌が誤嚥され、肺炎のリスクを高めることが分かっています。

妊娠性歯周炎・早産リスク

妊娠中はホルモンの影響で炎症が強まりやすく、早産リスクも示唆されています。

歯周病を放置するリスク

歯周病を放置すると、歯を失うだけでなく、全身の健康に大きな影響を及ぼします。

  • 歯の動揺・自然脱落
  • 咀嚼能力の低下による栄養障害
  • 口臭の悪化
  • 噛み合わせの崩壊(ドミノ現象)
  • 見た目の変化(歯ぐき退縮・老けて見える)
  • 全身疾患リスクの増加

歯周病の検査項目

歯周病は、専門的な診査・検査を行わなければ正確な状態が分かりません。

歯周ポケット検査

専用の器具で歯と歯ぐきの溝の深さを測定し、炎症の程度や進行度を評価します。

動揺度(歯の揺れ)チェック

歯の動き方を評価することで、骨の支持力の低下を確認します。

レントゲン検査

歯槽骨の吸収状況、歯根の状態、炎症の広がりを確認します。

プラーク付着量の評価

磨き残しの量や部位を可視化し、セルフケアの改善点を把握します。

歯ぐきの気になる症状は早めにご相談ください

歯周病は初期段階では自覚症状がほとんどなく、痛みがないために放置されがちな病気です。しかし、その間にも歯を支える骨は確実に失われていきます。

「歯ブラシで出血する」「歯ぐきが腫れる」「口臭が気になる」「歯が長く見える」など、小さな変化でも歯周病のサインです。気になる症状があれば、まずは一度精密検査を受けてみてください。現状を丁寧にお伝えし、必要な対策をご説明いたします。